右手に剣を、左手に君を


「……怒るなよ」



その顔がおかしくて、思わず苦笑してしまう。


すると渚は余計に膨れてしまった。



「無理は、よくないよ。

おばあ様が心配なんでしょ?

皆わかってるから、もっと甘えていいと思うよ」



雅や健太郎に甘える?


オエー、気持ち悪い。


……なんて、強がる気力も薄れている。



「……わからないんだよな、甘え方が……」



つぶやきが、滑り落ちる。


渚はそれを聞き逃さず、1つ残らず拾おうと待ち構えているようだった。


その青い瞳に見つめられると、穏やかな海を見ているように安心してしまう。


そして、気づけば……。



「俺な……5歳の時、両親に捨てられたんだ」



俺は1つ、渚に秘密を打ち明けていた。


渚は、黙って聞いている。



「5歳の時……突然左手から、“出せ”って声が聞こえて。

意識を集中したら、草薙剣が現れた」



かゆいような感覚だった。


それが嫌で、自分の中の異物を外に出そうとしただけだった。


虫か何かが、おへそから入ったんだと、のんきに考えていたのに。


出てきたのは、子供には重すぎる剣だった。


左手から剣の柄(ツカ)が出てきたのを初めて見た時……。


びっくり仰天した俺は、すぐに母親に泣きついた。


もう、父親の顔はおぼろげにしか覚えてないが……。


その時の母親の顔は、まだ克明に覚えている。


それは、妖に出会った人間の、ひきつった顔と同じだった。


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