右手に剣を、左手に君を
「その後すぐに、俺は一人でばあちゃんのところにやられたんだ。
それから両親には会ってない」
じいちゃんは、とっくに亡くなっていた。
母親は、ばあちゃんの一人娘だった。
しかし、こんな田舎にいたくないと、家出同然で都会に出ていった。
そこで父親に出会い、ばあちゃんに黙って結婚して、俺が産まれた。
そんな勝手ばかりしていた娘が、
突然帰ってきて、孫を置き去りにしていって。
さすがのばあちゃんも、戸惑っただろう。
しかし神剣を持つ俺を、ばあちゃんが放り出すはずはなかった。
「最初は全然うまくいかなかったんだ。
そのうち両親が迎えに来てくれると信じてた。
ばあちゃんにも、なかなか甘えられないまま……。
神剣の制御の仕方を教わって、妖退治ばっかりするようになった」
「…………」
そんなわけで甘え方なんか、知らないんだ。
そう締めくくると、相変わらず暗い空をながめた。
昨日、倒れたばあちゃんの細い身体を見てから。
もっと、甘えておけば良かった。
もっと、色々してやれば良かった。
そんな縁起でもない事ばかりが、頭をよぎっていく。
「何言ってんだか……かっこわりいな」
立ち上がって、洗濯機の方へ戻ろうとした。
すると。
急に背中に温かみを感じて、足が止まる。
腹には、細くて白い腕が巻きついていた。
「何だよ……動けないんだけど」
「うん……でも、こうしたいの」
「…………」
顔を見ないようにしていたのに。
その安心感に、頼ってはいけないから。
一度頼ったら、依存症になってしまいそうだから。
だってほら。
こんなに、温かい。