右手に剣を、左手に君を
「あいつ、言ったんだ。
好きな人が死んでしまった後の世界で生きるのは、悪夢だって」
「…………」
「もう、目覚めないでいい。
忠信との、幸せな夢だけ見ていればいい。
もう一度、渚を封印してやろう」
「お前……っ」
健太郎が、俺に詰め寄る。
雅が片手で、無茶をしないようにその肩を押さえていた。
「恒一。封印って……どうやるか、わかるのか?
あの岩の祠はもう、砕けてなくなってしまったんだぞ」
「じゃあ……海に返す」
「返すってなんだよ!渚はモノじゃねーんだぞ。
それに、海神は渚を見捨てたんだろ?」
「じゃあ、俺にどうしろって言うんだよ!!」
珍しく声を荒げた俺に、二人は目を見開いて黙った。
三人だけの居間に、沈黙が落ちる。
息が苦しい。
これからの事を思うと、吐きそうだった。
「まだ俺に、渚を説得しろって言うのか?
もう無理だよ。
玉藻が何もかも、ダメにしていった……」
「コウ……」
「何で俺は、御津忠信なんかの子孫なんだよ……」
子供の頃から、そのせいで嫌な思いばかりしてきた。
でも、渚に出会ってからは、自分が忠信本人になりかわりたいなんて、思ったこともあった。
なのに……。
今はその事実が、こんなに呪わしい。