右手に剣を、左手に君を


「空亡が……復活した……?」



龍神の姫は、呆然とした表情で言った。



「まだ、はっきりとは申せません。

しかし、そうとしか考えられないような事が、この住吉(スミノエ)に起こっているのです」



ばあちゃんが、説明を続ける。



昔、龍神がいたという海に面したここ、住吉町(スミノエチョウ)。


最近、この町は不安に包まれていた。



「異常気象や、原因不明の病、それに神隠しが続いて起きているのです」



ばあちゃんは簡潔に行った。


その通り、もう6月になるというのに、この住吉町はまだ肌寒い。


おかげで、町民は皆長袖を着ている。


そして、病気に神隠し。


原因不明の病が、この町に流行りはじめていた。


症状は様々だが、外傷もないのに突然意識不明になる事が多いらしい。


しかも、自分と同い年くらいの若い男女が発病している。


神隠しも同じだ。


何故か、若い男女の原因不明の失踪が増えていた。



「なるほど……確かに、空亡がいた頃の状況にそっくりです」


「空気が穢(ケガ)れてるでしょう?」



龍神の姫は、空中の臭いをかぐように、鼻をふんふんと鳴らした。



「外は、確かに……。
でもここは、清浄ですね」


「ここは、私が管理する住吉(スミノエ)神社の敷地内だからです」


「あなたも……忠信様の子孫なのですね」


「はい」



なるほど、と姫はうなずいた。


のだが……。



「……で?」


「はい?」


「なんで、私の封印を解いたの?」



は???


俺達は全員、あ然とする。


咳払いをして、ばあちゃんが言った。



「あなた様の力を、お借りしたいのです。

この者達は、まだまだ未熟。

空亡を倒すには、あなた様の力なしではできないのです」


「……んーと、また私に空亡と戦えと、そういう事?」


「はい」



ばあちゃんは丁寧に言った。


そりゃそうだろう。


何でわからないんだ?


もしかしてこの姫は……アホか?



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