右手に剣を、左手に君を
「違う……!」
「離して!!」
渚は腕の中でもがく。
神の力を出せば、俺なんか簡単に殺せるだろうに。
どうしてか彼女は、そうしない。
背中をかきむしられるのを感じながら、俺は懸命に、言葉を出した。
「違う、違う、違う!
最初は、知らなかった。
龍神剣のことを知ったのは、全員、つい最近なんだ」
「嘘っ!」
「本当だ!本当に、知らなかったんだ。
先祖が、お前にどんなひどい事をしたのかも……」
「ああああああっ!!」
俺の声が聞こえないように。
渚は悲鳴で、それを覆った。
悲鳴は嗚咽に姿を変える。
何事かと駆けつけた雅と健太郎が、ふすまを開けるた気配がしたが。
そこに配慮する余裕は、なかった。
「ごめん、ごめんな。許せないよな」
「うぅぅ……っ」
「……っ」
俺の身体を拒否するあまり、渚はその歯を二の腕に立てた。
鈍い痛みが、そこから広がっていく。
しかしそんなものは、どうでも良かった。
「ごめんな。
けど、俺は本当に、お前を利用しようなんて思ってなかった。
情けないけど、そんな器用な事ができるほど、俺は大人じゃないんだよ……」
「うっ……、うぅ……っ」
渚の噛む力がゆるんでいく。
その瞳は固く閉じられて、涙が次から次へと流れていった。
もう、ごまかしなんかは通じない。
彼女を強く抱きしめたまま、その耳元に本音を囁いた。