右手に剣を、左手に君を
渚は一方的に離し終えると、もう少し休むと言って、部屋に戻ってしまった。
雅と健太郎は、米倉と尾野の様子を見るために、一度学校へ行くと言った。
俺はばあちゃんの看病もあるし、家に残る事にした。
「結界、張らないとな……」
のろのろと立ち上がり、ばあちゃんの作ったお札を持ち出す。
これに霊力を送り込み、敷地の四隅にはれば、一応は結界になる。
ばあちゃんが丹念に作ったものには到底敵わないが、敵が来た事を感知するくらいはできるはず。
……それにしても……。
まだ頭はぼーっとして、身体に力が入らない。
神社の空気の方がまだ清浄だから、そちらに行こうと決めた。
「ばあちゃん」
「なんだい」
まだ横になっているばあちゃんに、声をかけた。
ばあちゃんは力なくこちらを見て微笑む。
お互いに、無理をしている事がわかるのだ。
「ちょっと、結界を張りに、神社の方に行ってくる。
すぐ帰ってくるから」
「ああ……そうかい」
玉藻に記憶を引きずり出されたのは、ばあちゃんも一緒。
状況は飲み込んでいるはず。
だけどばあちゃんは、俺をむやみに励まそうとはしなかった。
それが、ばあちゃんの優しさなんだと。
俺には、なんとなくわかった。