右手に剣を、左手に君を
その女は、賽銭箱の前の階段に立っていた。
傘もさしていないのに、どこも濡れた様子がない。
意識を澄ますと、彼女の周りが透明な霊気で包まれているのがわかる。
それが合羽の役割をしているんだ。
「……どなたでしょうか」
完全に、常人ではないオーラを、彼女はまとっていた。
しかし、妖にしては清浄すぎて、人間にしては美しすぎる。
警戒する俺に、女はゆっくりと、その桜色の唇で問いかけた。
「私の妹……善女竜王は、こちらでしょうか」
……なんだって?
妹……?
「あなたは……」
「申し遅れました。
私は善女の姉、倶利伽羅(クリカラ)と申します」
倶利伽羅、と名乗ったその女性は、軽い会釈をした。
人間に深々と頭を下げる流儀はないらしい。
逆にそのオーラに押された俺の方が、頭を下げていた。
「御津恒一です」
名乗ると、彼女は一瞬眉をよせた。
「存じ上げております。
御津忠信の子孫……ですね」
今、一番言われたくないことを、彼女は当然のように口にした。
今までの経緯を知っているのか、いないのか。
新たに現れた龍神の姫に圧倒された俺は、無駄口をたたくことができなかった。