右手に剣を、左手に君を
「コウ、くん……」
渚が、小さな声で俺の名前を呼ぶ。
なんだかそれが、すごく久しぶりのような気がした。
さらに何か言いかけたのにかぶせて、リカさんが言う。
「とにかく、帰りましょう。
もうあなたに、人間のために龍神剣を産ませるわけにはいかない」
やわらかくなりかけた居間の空気が、その一言で冷えていく。
「お姉さま……」
「海神様には、私も一緒に交渉してあげるから。
今まで手を出せなかったのは、海神様もあの封印を見張ってたからよ。
でも、それを人間が勝手に解放してしまって、お怒りになると同時に、あなたのことを心配しているから」
……何気に、爆弾発言だけど。
やばい……
あの封印を解放したことを、海神……つまり、渚の父ちゃんが怒ってる……。
「やっぱり父親は、なんだかんだ言って娘が可愛いのよ」
勘当した娘が帰るのと、一緒かよ。
呆れていると、リカさんがきっと俺をにらんだ。
「もう、人間にこの子を汚させるわけにはいかない。
人間なんかと交わったりしたら、誇り高き龍神の血が穢れてしまう」
「ま、交わってって……!」
「うわーバカバカ、お姉さまのバカー!!」
リアルに想像してしまったのか、渚は真っ赤になって、リカさんの肩をぽかぽかと叩いた。
って、まさか……。