右手に剣を、左手に君を


渚は、打たれた頬を押さえたまま、じっと畳を見つめていた。


俺は、その前に膝をつく。



「おっかない、姉ちゃんだな……」



そう声をかけると、渚は小さくうなずいた。



「なぁ……渚。

さっき、誤解、解けたよな……?」



渚はまた、小さくうなずく。


とくり、と、心臓が鳴るのを感じた。


抱きしめたい衝動を抑えたまま、話しかける。



「……じゃあ、俺が昨日言った事は……。
信じて、くれるか……?」


「昨日……」


「……好きだ、って……」



渚は一瞬、顔を上げた。


真っ赤な、泣きそうな顔……。


その顔はすぐ、うつ向きに戻ってしまった。



「……ごめんね……」


「…………」


「信じられないよ……。


コウくん達が、龍神剣を頼りにしてるのは、本当でしょう?

龍神剣は、私が……愛した人のために、産まなきゃいけない。


だから、そのために、私の気持ちを揺らすために、

そう言っているんだとしか、思えない……」



最後の方は、涙声だった。


思わずにぎってしまった渚の指先から、とくとくと痛みが伝わってくる。


それは、俺の胸を有刺鉄線のようにしめあげた。


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