右手に剣を、左手に君を
海が荒れている。
高波が、次々に岸に押し寄せる。
空は灰色に染まり、雨雲が泣くのを必死でこらえているようだった。
俺達三人は、そんな海をボートで渡り。
地元の人間も誰も近づかない洞窟に、踏み入れた。
「ここだ」
入り口にされたしめ縄を越え、中を歩いていく。
不気味な静けさの中、三人分の靴が鳴る音だけが響く。
しばらく歩くと、やがて、岩の祠(ホコラ)が見えた。
こんなところにどうやって作ったのか。
それは洞窟の突き当たりの壁に、コブのように、ぺたりとはりついていた。
祠の底の部分に、やっと、頭上に伸ばした手が触れるかどうかという高さだ。
「……始めるか。
恒一(コウイチ)、剣を」
一緒に来た仲間の一人、雅(ミヤビ)が俺に指示する。
「任せたぞ、コウ」
もう一人、健太郎(ケンタロウ)が緊張した俺の肩を叩いた。
俺は、うなずき。
左の手の平に意識を集中させた。