右手に剣を、左手に君を


渚は小さな声で、きまずそうに言った。


途端に胸の中を不快感が押し寄せる。



「何もされなかったか?」



何で渚がここにいるのを知っていたんだとか、

どうやって自宅を通さずに呼び出したんだとか、

渚もどうして、何の警戒もせず一人で出歩くのかとか、

聞きたいことは山ほどあったけど。


とりあえずそれだけ聞くと、渚はうつむいた。



「大丈夫」


「……そうか……」



そっけない返事。


俺もまた、そっけなく返すしか、出来ない。


きまずい沈黙を、無理やり破ろうとした。



「家に帰ろう」


「……はい」


もう、手をつなぐ事はしない。


俺たちは黙ったまま、互いの気配だけを感じながら。


家の方へ歩き出した、その時だった。








< 201 / 449 >

この作品をシェア

pagetop