右手に剣を、左手に君を
渚は小さな声で、きまずそうに言った。
途端に胸の中を不快感が押し寄せる。
「何もされなかったか?」
何で渚がここにいるのを知っていたんだとか、
どうやって自宅を通さずに呼び出したんだとか、
渚もどうして、何の警戒もせず一人で出歩くのかとか、
聞きたいことは山ほどあったけど。
とりあえずそれだけ聞くと、渚はうつむいた。
「大丈夫」
「……そうか……」
そっけない返事。
俺もまた、そっけなく返すしか、出来ない。
きまずい沈黙を、無理やり破ろうとした。
「家に帰ろう」
「……はい」
もう、手をつなぐ事はしない。
俺たちは黙ったまま、互いの気配だけを感じながら。
家の方へ歩き出した、その時だった。