右手に剣を、左手に君を


「コウくん……っ!
やめて、もうやめてよぉ……っ!」



涙に濡れた渚の声が聞こえたと同時に。


暴力が、一瞬止んだ。



「どうして……?

コウくん、何で剣を捨てたの……?」



ぼんやりと、ではあるけど。


かすむ視界に、玉藻に捕らえられたままの渚の顔が見えた。


それは既に、涙でグシャグシャになっている。



「……決まってる、だろ……」



どうしてって。


君をもう、傷つけたくない。


ただそれだけだよ。


最近は、そんな泣き顔ばっかり見てるから……。


もう嫌だったんだ。


……笑ってほしいのに。


そっちこそどうして、そんなに泣いてるんだよ……。



「コウくん……っ!」



渚が叫ぶと同時に、その髪が銀色の輝きを放ちだす。



「渚……」



力が、戻ってきたのか?


しかしそんな渚に、迦楼羅が言う。



「龍神の姫。

神の力を使えば、こやつは殺す」



そして倒れた俺の喉元に、草薙剣を突きつけた。



「な……っ!

ダメ、絶対ダメ!

コウくんを殺さないでっ!!」



渚はいやいやと首をふった。


髪は茶色のまま、輝きを失っていく。



「バカ……っ!

お前、だけ、でも、逃げろよ……っ!」


「できないよ、できないぃぃ……っ!」

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