右手に剣を、左手に君を
現代では見た事のない、ただの着物とも呼びがたい衣装。
長い袖に、膨らんだすそ。
頭には烏帽子(エボシ)をかぶっている。
それは平安時代の、高貴な者がする格好だった。
それより何より、俺の目を奪うのは。
健太郎にそこそこイケメンと言われた、この俺の顔と。
全く同じ、その男の顔だった。
濃くも薄くもない普通の眉。
標準より少し大きな目。
高いと言われる鼻。
薄い唇。
……いや、全く同じでは、ないかもしれない。
俺があと10歳歳をとったら、こうなるだろう。
そんな顔だった。
「……アンタはもしかして、御津忠信……ご先祖様か……?」
おそるおそる聞いてみたが、その男は答えない。
そうか……。
ここは、夢の中なんだ。
俺は何故か、そう確信した。
同意するように、草薙剣がわずかに震えた。
「……どうして……」
夢の中とはわかっていても。
はじめてのご先祖との対面に緊張し、声がかすれた。
しかし御津忠信は、俺に気づいていないようだ。
「!」
思わず、目を閉じる。
忠信が、突然ぶつかるくらいの勢いで近づいてきたと思ったからだ。
しかし光の粒でできた忠信は、俺の体をすり抜けてしまった。
思わず、振り返る。
すると、そこには……。
「……渚……」
間違いない。
銀色の髪に、青い瞳。
そして巫女のような衣装を着た渚がいた。
忠信は、その渚に近づく。
どうやら渚も、光の粒でできているようだった。