右手に剣を、左手に君を
その日は、雨が降っていた。
空亡が日照り続きにしていたこの地に、
善女竜王が雨を降らせてくれたのだ。
「さすが、龍神の姫君」
屋敷の中からその雨を見つめていた善女竜王は、私の方を振り向いた。
「えへへ、良かった、うまくいって……」
彼女は自分が神だからといって、傲慢な態度をとったりする事はなかった。
むしろ姫と呼ばれ、恐縮しているくらいだ。
はにかむように笑うその笑顔は、
戦いに疲れていた私の心にも、潤いを与えてくれた。
私は、善女竜王の身体を抱きしめた。
何故そうしたのかは、わからない。
誰かに取られてしまうかもという焦りや、
いつかは離ればなれになってしまうという切なさや、
とにかく色々なものが、私の胸を支配してしまったのだ。
「あ、あの、忠信様っ?」
腕の中で、善女竜王が困ったような声を出した。
私は彼女の顔を見ず、耳元で囁く。
「……愛しています……」
腕の中で、びくりと彼女が震えるのがわかった。
とんでもない事をしてしまった。
突然後悔が押し寄せ、彼女の身体を離すと。
善女竜王は、私の顔をまっすぐに見上げた。
赤く染まった頬に、潤んだ瞳で……。