右手に剣を、左手に君を
私はたまらず、善女竜王の唇を奪った。
無理矢理押しつけたそれを、彼女は嫌がらず、優しく包み返す。
私達は出会った瞬間から、こうなる事が決まっていた。
そんな不思議な気持ちになる。
きっと、彼女もそう思っていてくれたのだろう。
恥じらいで震える指が、それを物語っていた。
私は善女竜王に、あだ名を付けた。
【渚】
そのあだ名を、彼女は気に入ってくれた。
竜王と呼ばれなくて、嬉しい。
人間みたいで、嬉しい。
しきりに、そんな事を言っていた。
すぐそこに、別れの日が来ているのも知らず……。
私達は、人目を忍んで愛し合った。
と言っても、契るわけではない。
ただ抱き合って、愛の言葉を囁き、
ときどき、唇を合わせるだけだった。
最後の一線を……。
私は、越えられなかった。
この戦いが終わったら。
海神に、貴女を人間にしてもらえるように頼もう。
そうしたら私と契り、私の妻になって、私と一緒に歳をとってください。
そう言うと。
渚は、大粒の涙を流しながら。
真っ赤な顔で、小さく、うなずいてくれた。