右手に剣を、左手に君を
「野田は……!」
さっき、教室にいたっけ?
目立たないやつだから、見えなかっただけか?
雅が、隣のクラスの入り口に手をかけた途端。
異変は、起こった。
「!!」
天井から、重苦しい妖気が垂れ込めてきたんだ。
雨漏りのように、ぼたぼたと黒い妖気が廊下を染めていく。
「ヤバイ……!」
健太郎が、後ろを振り返る。
すると、廊下を歩いていた生徒が、
常人には見えない妖気に打たれて、
一人、また一人と倒れていく。
「まさか……っ!」
教室の戸を勢いよく開ける。
するとそこでも、黒い雨垂れにやられた生徒が次々に倒れていた。
「いやぁぁっ、何これっ!」
悲鳴を上げた女の子も、すぐに倒れてしまった。
残った数人のクラスメートが、俺に向かって叫ぶ。
「御津ぉぉっ、何だよこれ!
何とかしてくれよぉぉぉっ!」
「バカにして悪かったよ、もうやめてくれよぉぉっ!」
はぁ!?
まさかこの現象を、“神社の息子”が一人でやってると思ってんのか!?
頭がクラクラした。
ずっとこない夏。
開けない梅雨。
帰らない町の人々、終わらない病。
それが、こんなに普通の人間の心まで、蝕んでいたのか。