右手に剣を、左手に君を


「おい、神社の息子」



ある放課後、またそうやって後ろから呼ばれた。


教室を出ようとした時だった。


もう、俺は恒一って名前がある事も、忘れそうだった。


ただでさえ、今から子供の足で一時間も歩く通学路を帰らなければならないのに。


うんざりしながら振り返ると。


そこには、俺と同じような立場の人間がいた。


確か、野田って苗字。


名前はわからない。


俺は彼を、その程度しか認識してなかった。


野田はいつも、洗いざらした体操服を着て、学校に来ていた。


もちろん、他の生徒は私服だ。


女の子なんか、毎日違うデザインの物を身につけている子も少なくない。


体操服は、体育の時間に着替えるものだ。


俺だって、そう認識していた。


ばあちゃんはセンスは古いけど、仕立ての良い子供服を、俺に着せてくれていた。


親のいない俺が、みじめにならないように。


そうやって気を配ってくれているのに気付いたのは、もう少しあとの事。


とにかく俺は、野田に“神社の息子”呼ばわりされた事に、腹が立った。


だから、周りと同じように、言い返す事にした。


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