右手に剣を、左手に君を
「なんだよ、貧乏人」
「な、なんだと……!」
野田はみるみるうちに、真っ赤になった。
怒りでぶるぶると震えはじめた彼を見て、
あ、ヤバイなと思った。
周りは遠巻きに、いじめられっ子どうしのケンカを見ている。
そう、野田のあだ名は“貧乏人”だった。
詳しい家庭の事情は興味もないし、よく知らない。
いや、そんなの誰も知らなかったのかもしれない。
ただ、いつも体操服を来ている事や、不自然に痩せ細っている事、
たまに給食がない日の弁当は、フタで隠して食べている事なんかが、
“貧乏人”と見なされる元凶になったらしい。
子供は、素直で残酷だ。
今なら気をつけられる事も、そうはいかない。
野田も、悪かった。
家が近くで、親切にしてくれたクラスメートの家に、
放課後何時間も入り浸ったりしていたから。
それはクラスメートの親が学校に相談した事で、たちまち有名な話になってしまった。
何故かそのクラスメートは時の人となり、野田の悪い噂をばらまいた。
「あいつ、自分ちに何もねーから、ゲーム目当てでうちに来るんだ。
しかも冷蔵庫勝手に開けて、おやつをねだるし。
うちのママが“夕飯食べて行く?”って言うのを待ってんだぜ」