右手に剣を、左手に君を
「これ、便利だねぇ。
温かいし、着脱が簡単だねぇ」
無事にパンツを履いた渚は、ニコニコしていた。
「ねぇ、すごいねぇ。
これ、手出しただけで水が……」
今度は、洗面台に興味津々。
「……良いから、行くぞ……」
完全に遅刻だ。
俺はグッタリと力が抜けていくのを感じた。
一言で言うのは容易いが……。
タイムスリップとは、実際はこういう事なのか……。
頭痛がする。
こいつは何も知らない。
全部、いちいち教えなきゃならないのか……。
赤ん坊みたいな神様じゃねぇか。
「……待て」
「ふぇ?」
「下がなかったって事は、上も……」
「???」
……もういい。考えるのはよそう。
小さそうだし、大丈夫だろう。
しかしどうしても、渚の制服の中がノーブラであるという事実が。
頭から、しばらく消えなかった。
「……へへ」
「何だよ」
いきなり渚が笑うので、つっけんどんに返してしまう。
「コウくん、手、あったかいね」
「……は!?」
そういえば、コンビニからずっと繋いだままだった。
小さな手を、パッと離す。
途端に渚は、寂しそうな顔をした。
「……離さないで……」
「…………」
「コウくん……ガッコウまで、繋いでて……」
ダメかなぁ?
渚は小首をかしげ、その小さな手を差しのべた。
そして。
大きな瞳に涙を浮かべ、言った。