右手に剣を、左手に君を
**


恒一、頼む。


間に合ってくれ……!


目の前の迦楼羅の背中の向こうを、


恒一は渚の手を引いて走っていった。


それでいい。


もう、大切なものを手離すな。



「よそ見をする余裕があるのか?」



迦楼羅が、緊張した面持ちでこちらを見る。


いつもより余裕がないのは、空亡の完全復活が近づいているせいだ。


それでも迦楼羅は、俺が斬りつけていた剣を、短剣一本で防いだ。


俺は一度、距離を開ける。


そして、十束剣を高く振り上げた。



「鎌鼬(カマイタチ)っ!!」



ビュオ、と宙を切る音と共に振り下ろした剣から。


風が、三日月形の刃(ヤイバ)となって、迦楼羅を狙う!



「はっ!」



一つ、二つ。


風の刃は、避けられ、防がれたが……。


最後の一つが。


ザシュ、と迦楼羅の肩口に命中した。



「な……っ!」



思えば今まで、直接対峙した事のなかった敵。


相手は俺の事を、かなり甘く見ていたようだ。



「ふっ……。

ただの優男だと思っていたぞ。

その力はどうした……」


「話す必要は、ない」



神の口づけを受けたなどと口走れば、また渚が狙われてしまう。


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