右手に剣を、左手に君を
……結局、俺達は遅刻した。
それは良いが、クラスじゅうの視線が痛い。
何せ、今まで普通のクラスメートだった男が。
突然、美少女転校生と手を繋いだまま教室に入ってきたのだから。
好奇の目で見られるのは、当然と言えた。
休み時間に、渚と俺は質問責めにあった。
「ねぇねぇ、どういう知り合いなの?」
「遠い親戚だよ」
「な、渚さんは彼氏とか……いるんですか?」
「いないよな、渚」
質問にはほとんど、俺が適当に答えた。
渚は鉄筋コンクリート建ての学校を見ただけで、ぷるぷるしていた。
黒板も、机も、他の生徒も何もかも、彼女にとっては異世界のものだ。
横でぷるぷる震え続ける彼女が不憫で。
昼休みになるとすぐに、俺達は教室から出た。
すると、廊下でもすぐに、注目の的になってしまった。
何せ、異様に目立つ。
学校の人気者の雅と健太郎。
普通の俺。
美少女転校生の渚。
周りは、仮装行列でも見るかのような視線を、こちらに送ってきた。
この学校は、この町唯一の高校だ。
生徒のほとんどは、この町で産まれ育った者ばかり。
普通科の学校で、偏差値も普通。
ただ、駅からはバカみたいに遠い。
だから、他の町や市から来る物好きが少ないだけだ。
同じ理由で、よほどの理由がない限り、この町の者はこの高校へ通った。
だから小学校や中学校から知ってるやつがほとんど。
それが大学進学や就職で、卒業後一気に離ればなれになる。
そして、ほとんどのやつが戻ってこない。
住吉町は、そういう町だった。
娯楽も就職先も少ない、若者には酷な環境だ。