右手に剣を、左手に君を
そんなアホなやりとりをしているうち。
カシャッ。
無機質な音が、背後からした。
「……おい!」
俺は思わず、渚の手を離す。
逃げたその音の原因を。
腕を伸ばし、とらえた。
「何撮ってんだよ!」
首根っこをつかまれ、怒鳴られた男子生徒は、スマホを持っていた。
「違う、違う、誤作動だよ!
指が触れちゃっただけなんだ!」
「ほぉ、そうか。じゃあ消してやるから、見せてみろ」
「や、やめてくれよぉ」
男子生徒の手から、無理矢理スマホをもぎ取る。
はい、現行犯。
バッチリ、渚の絶対領域が写ってる。
俺はそれを即行削除した。
「趣味悪い事すんじゃねぇよ、野田」
名前を呼ばれた男子生徒は、びくりと肩を震わせた。
スマホを返してやると、俺の裏から渚がひょこりと顔を出す。
「ねぇ、それ、なぁに?」
「へ?」
「見えたよ。それ、私の姿を焼き付けてた。何の占い道具?」
無邪気な顔でスマホに興味を示した渚を、コラ、と制する。
ほら、野田が不審に思ってるじゃないか。
スマホやカメラ付きケータイを知らないやつなんか、いないんだから。
「あ~、何でもない!じゃあな!」
「あ、やだぁ、もっとよく見せてよぉ」
「わかった、俺のを見せてやるから、行くぞ」
「えっ、同じの持ってるの?
すごぉい♪」
「バカ、歩けない!少し離れろっ!」
俺は腕にからみつく渚を引きずり、野田から逃れた。
そのまま階段を上がり、突き当たりの扉を開く。
幸い屋上には、あまり人がいなかった。