右手に剣を、左手に君を


「では、この人を疑うのはどうなのです。

あなたの愛しい人まで、

あらぬ疑いをかけられているのよ」



そういえば、そうだった。


この町にいれば、俺はきっとずっと、白い目で見られる……。



「だから、人間なんて早く見捨てるべきだったのよ。

この人といたって、明るい未来なんか、ないわ」



リカさんは冷たく言った。


無理して、心を凍らせて……。


妹を、守ろうとしている。



「おねえさま……

それでも、私は……」


「もう黙りなさい。

御津恒一。

貸していた剣を、返してちょうだい」



渚の言葉を遮り、リカさんは俺のほうを見る。


まだ倶利伽羅剣は、この身の内にあった。


これを渡してしまったら、また俺は丸腰になってしまう。


返事ができないでいると、

リカさんは厳しい瞳で、俺をにらんだ。


< 332 / 449 >

この作品をシェア

pagetop