右手に剣を、左手に君を
渚の周りに、霊力の渦が立ち昇る。
「やめなさい、善女!!
倶利伽羅剣は、もう少し貸すから!」
「でも、この方が確実に、
勝利に近い……」
「やめろ、渚!」
千年前、龍神剣を産んで消滅しそこなったことを、
彼女はまだ、知らない。
今回だって、どうなるかわからない。
しかし渚は、勝利に焦るあまり、人の話を聞いていない。
霊力の渦の中、彼女の胸が青い光を放った。
その時。
「よしなさい」
低い、声がした。
穏やかな海の、波の音にも似た……。
その声に、渚は目を見開いた。
胸の光は消え、霊力の渦も消失する。
リカさんも、言葉を失って、
その声がしたほうを振り返った。
そこには。
着物を着た男が一人、立っていた。