右手に剣を、左手に君を


渚の周りに、霊力の渦が立ち昇る。



「やめなさい、善女!!

倶利伽羅剣は、もう少し貸すから!」


「でも、この方が確実に、

勝利に近い……」


「やめろ、渚!」



千年前、龍神剣を産んで消滅しそこなったことを、

彼女はまだ、知らない。


今回だって、どうなるかわからない。


しかし渚は、勝利に焦るあまり、人の話を聞いていない。


霊力の渦の中、彼女の胸が青い光を放った。


その時。



「よしなさい」



低い、声がした。


穏やかな海の、波の音にも似た……。


その声に、渚は目を見開いた。


胸の光は消え、霊力の渦も消失する。


リカさんも、言葉を失って、

その声がしたほうを振り返った。


そこには。


着物を着た男が一人、立っていた。


< 334 / 449 >

この作品をシェア

pagetop