右手に剣を、左手に君を


やがて砂浜に降りた渚は、人間の姿に戻った。


今度はちゃんと、服を着ている。



「気をつければ、できるんだよー」



と、この場に似合わない口調で言った。


別に龍神の姿のままでいてくれても、かまわないけど。

きっと俺たちの前では、人間ぽくいたいのだろう。

それに今は、そんな事を話している場合じゃない。


全員が無駄な口をつぐんだ。


空亡は海の上に浮かんでいた。


俺たちは、すぐに左手から剣を出し、右手ににぎる。


すると俺の左側に、渚が寄り添った。


その瞬間。


空から、あの希望を絶望に変える声が降ってきた。



《やってきたか……》



空亡だ。


何度聞いても、背筋が凍りそうになる、この声。


しかし、もう後には引けない。


引くところなんか、ないのだ。


帰る場所を作るためには。


前に進む他は、ない。



「人間達の魂を、元に戻して!!」



渚が叫ぶ。


魂たちはまだ、空の星のように浮かんでいた。


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