右手に剣を、左手に君を
「御津!」
突然、後から声をかけられた。
振り向くとそこには、懐かしい顔があった。
「野田?元気そうだな」
「御津こそ。
うわー。なんか垢抜けたね。
まさにイケメンって感じ」
「バーカ。何も出ないよ」
俺は、久しぶりに住吉町に帰ってきた。
県外の大学に行き、下宿生活をしていたからだ。
今では神社の跡とりも、大学ぐらい出ておけと、ばあちゃんに言われたから。
ばあちゃんは、今でもバリバリ元気だ。
あの戦いの後、どういうわけか、
この町の人たちは、妖に関する記憶を全て、なくしていた。
学校でも、尾野や米倉、それに……
渚のことも、全員が忘れていた。
空亡が消滅してすぐ、この町は平和を取り戻した。
魂が戻った人々は、元通りに元気になった。
行方不明者も、運良く妖に食われなかった人たちは、
小学校の裏山から次々と発見された。
季節どおり夏が訪れ、
住吉神社の夏祭りは、例年のようににぎわった。
誰も、人間同士で疑いあったことは、覚えていないようだった。