右手に剣を、左手に君を
「……もう6月なのに、色がない。
寂しいだろ」
俺は渚の目の前の紫陽花(アジサイ)を指差した。
ゆっくりとそちらに歩いていくと、渚はやっと顔に笑みを浮かべる。
「肌寒いもんね……可哀想に。
今年は咲けないのかって、心配してる」
「紫陽花がそう言ってるのか?」
「うん」
彼女はうなずくと、立ち上がった。
今日は銀色の髪が、さら、と音を立てる。
「……咲くと、綺麗なんだけどな。
青と紫の中間みたいな色で。
この辺ずーっと、青い壁みたいになるんだ」
「へぇ~。見てみたい」
渚は大きな瞳を細めて、紫陽花の葉をながめた。
その様子は、まるで花の妖精のようだった。
花の声が聞こえるなんて。
他のやつが言ったらドン引きの鳥肌もんだが、渚が言うと違和感がない。
……そういやこいつ、神様だったな。
ばあちゃんの地味な着物を着ているけれど。
朝の光を浴びた彼女は。
やはり、綺麗だった。