右手に剣を、左手に君を
最近、俺はおかしい。
忠信の血のせいか、あの夢のせいか。
この龍神の姫が、気になって気になってしょうがない。
何か他の話題を探そうとしていると、渚がぽつりと呟いた。
「あなた達が無事に咲くには、空亡を倒さなきゃいけないんだね……」
それは、紫陽花に向けた言葉だった。
「…………」
「……これから、どうなるのかな……」
「……多分、こちらから積極的に空亡に近づくような作戦を立てなきゃならないだろうな」
「うん……。
記憶……取り戻さなきゃね……」
渚の声は、いつもより暗く響いた。
「……そんなに、嫌か?」
「ふえ?」
「その……。記憶が戻れば、戦い方も思い出せるし。
そしたら、危険も減るだろ?」
「あぁ……」
渚は、困ったように笑った。
「うん……そうだね。
でも……」
「でも?」
「私が本当に怖いのは、戦う事じゃないの。
もちろん、戦いも怖いけど。
それより……」
「…………」
「……ううん、ごめんね。
なんでもない」
ふるふると首をふり、渚はうつむいてしまった。
それだけで、俺は胸に重たい石がのしかかってきたような。
苦しさを、感じた。