右手に剣を、左手に君を
日が沈み、暗くなってきた。
もうすぐ駅が見えてくるというところで。
突然、耳鳴りがした。
「……?」
他の三人も異変に気づいたようだ。
空気が、不穏に揺れている。
「……こっちか……?」
健太郎が、指さした方向には。
先の見えない、雑木林があった。
「妖か……!」
走りだそうとした俺の手を、何者かがつかんだ。
渚だ。
和やかな表情は消え、緊張が彼女を包む。
「行っちゃダメ」
それだけ言うと、渚はぷるぷると震えだした。
「何故、ダメなんだ?」
健太郎が尋ねる。
渚は、震える唇で答えた。
「嫌な予感がするの……」
「予感って……。
でも、また人が襲われてるかもしれないだろ?
放っておけねーよ」
「健ちゃん……そうだけど、でも」
渚は助けを求めるように、俺を見上げる。
「ごめん、俺も健太郎と同意見だ。
怖かったら、ここで待ってろ」
「ふえぇ!」
渚はショックを受けたような顔で、涙をためた。
そして、むむむ、とうなって。
何か決心したように、口を開いた。
「じゃあ、行く」
「無理するなよ」
「一人で置いていかれるよりは、マシ!」
ぷっ。
雅が、吹き出した。
「じゃあもしヤバかったら、深追いせずに、全員で逃げる事」
「おう」
「大丈夫だって!」
俺と健太郎が、同意して。
渚の手を離さないようにしっかり繋ぎ。
雑木林に、走り出した。