右手に剣を、左手に君を


完全に、バカにされている。


相手は降りてさえこない。



「バカにしやがって!
雅、人間の力を思い知らせてやれっ!」


「わかってる」



雅が、十束剣を構える。


しかし妖は、動かない。



「……降りてこい!」



ブゥン!

十束剣が、宙を切る!


三日月形の衝撃波が枝に当たり……。


バキバキ、と音を立てて、地面に落ちた。


しかし、妖達は……。


驚いたという顔もせず。


迦楼羅が玉藻の腰を抱き、その黒い翼でゆっくりと降りてきた。



剣をにぎる右手に、汗がにじむ。


二人の妖は、同じ地上で見ると、ますます強力な妖気を発しているように思えた。


玉藻が口を開く。



「しょうがないわね。
迦楼羅、少し遊んであげたら?」


「しかし、今日は早く空亡様の元へ戻らなければ」


「大丈夫よ。そんなにてこずらないでしょ?」



確かに、と迦楼羅はうなずいた。



「よそ見すんじゃねぇぞ、天狗ヤロウ!」



なめられて怒った健太郎が、布都御霊を構え、迦楼羅に斬りかかる!



ギィン!



「な……っ」


「神剣と言えども、保持者が未熟ならば、怖るるに足らず」



驚く事に、迦楼羅はいつの間に取り出したのか、

細い横笛一本で、健太郎の剣を受け止めていた。


何の変てつもなさそうな木の横笛。


そんなものに止められ、健太郎自身が信じられないといった顔をした。



「く、そ……っ!」



健太郎は一度飛び退く。


それを追いかけるように、迦楼羅の黒い翼が羽ばたく。



「!!」



先ほどのような、たくさんの黒い羽根が刃(ヤイバ)となって俺達を囲む!


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