右手に剣を、左手に君を
目覚めのキス



龍神の姫は、なかなか目を覚まさない。


封印は解けたはずなのに、そのまぶたは固く閉じられたままだ。


俺はしびれを切らし、隣の部屋の雅と健太郎の元へ戻った。



ここは、俺の家。


正確に言えば、俺の祖母の家だ。


古くさい、昔ながらの日本家屋。


その一室に俺達は集まっていた。



「目覚めない……か」



雅がため息をついた。



「何でだよ!封印は無事に解けたはずだろ?」



健太郎が不満を漏らす。



「わからないよ、俺にだって」



そう言って、畳の上に座った途端。


襖が、静かに開いた。



「恒一、姫の様子はどうだい?」



そこから顔をのぞかせたのは、俺の祖母だった。



「まだ寝てる」



俺はふてくされた。


ばあちゃんは、いつも俺を半人前扱いする。


封印の解放が完全ではなかったのか。


まだ、俺が半人前だからか……。


そんな風にイライラしていたら、ばあちゃんは苦笑して部屋の中に入ってきた。


雅と健太郎が、姿勢を正す。


ばあちゃんは、毎日一人で着物を着て、髪を結っている。


昔は綺麗だったんだろうな、という顔には言葉にできない威圧感があった。



「そう……。どうすれば良いと思う?」


「ばあちゃんにわかんないものが、俺にわかるわけないだろ」


「ふっ、どうしようもない孫だね。
ちったぁ考えな。

雅、お前はどう思う?」



反論する前に、ばあちゃんは雅に話をふった。


同じ学校で、女生徒の憧れの的になっている、美形の雅。


その完璧なフォルムの二重まぶたが、まばたきすると。


長いまつ毛が揺れた。



「……眠りが深すぎるのかもしれません。

なにせ、千年ですから。

本人の中で、記憶の混乱や、何か……抑制みたいなものが働いているのかも」



ばあちゃんは、うんとうなずいた。



「健太郎は?」


「はっ、俺っすか?」



ばあちゃんは、これまた同い年、高2の健太郎に、質問をぶつけた。



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