右手に剣を、左手に君を



「あの……」



何か言わなくては、と思ったら。


渚が先に口を開いた。



「でも、コウくんも守ってくれたよね。

ありがとう」


「えっ?」


「ぎゅってして、かばってくれた」



そうだっけ。


あぁ、迦楼羅の火炎地獄の事か。


必死だったから、冷静に思い出そうとすると時間がかかる。



「別に……その後、逆に助けられたし。

あの炎を消したのは……お前だろ?」


「そうみたい……必死だったから、よく覚えてないけど」


「はは、同じだな」



俺が笑うと、渚も微笑んだ。


なんだか、何年ぶりかで笑ったような気がする。



「結局、助けられたのは俺だな。
ありがとう」


「そんな……私、本当に役立たずで……」


「そんな事ない。

怖かったのに、俺達を守るために飛び出してきただろ。

お前、勇気あるよ」



な、と頭をなでてやると。


渚はふにゃりと、笑った。



それを見て。


俺は、意識を失う直前の事を思い出した。


きっと、泣いていたのは渚だったんだ。


自分を守って、誰かが傷つく。


そんなの……俺なら、耐えられない。


渚は何とかしようと、あの温かい霊力で、俺達を癒してくれたんだ。



「ごめんな……御津家の子孫が、こんなに頼りなくて」



思わず言ってしまうと。


渚は首がもげるかというくらい、勢い良く横に振った。



「私こそ、龍神なのに、こんなんでごめんね」



その声には、涙がにじんでいた。



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