右手に剣を、左手に君を
「ごめんなさい。
私、怖かったの……戦う事より、何より。
全部、思い出すのが」
渚は、ぽつりぽつりと話しだす。
「私ね……龍神のくせに、人間の忠信様が……大好きだったの。
忠信様も、私に……空亡との戦いが終わったら、海神様に頼んで、私を人間にしてくれるって言ったの。
そうして、夫婦になって、一緒に歳をとろうって……」
渚の目に、みるみる涙が溜まっていく。
しかし、それをこぼさないように、渚は必死に眉間に力を入れていた。
「だけど、私は現に、まだ生きてる。
龍神として」
「…………」
「それが何を意味するのか……。
もしかしたら、忠信様は私を利用して、裏切ったのかもしれない……」
こちらの胸まで、ギリギリと痛む。
まるで、自分が渚を裏切ってしまったような罪悪感を覚えた。
渚は本当に、忠信の事が好きだったんだ……。
神なのに、その力も永遠の命も捨てて良いと思えるくらい……。
「ごめんね、コウくん。
コウくんも、皆も、優しいから、ずっと触れずにいてくれたよね?
だから私、なかなか言えなかった……。
口に出すのも、怖かった。
人間の皆に、神様のくせにって、軽蔑されるのも、怖かった……」
俺達は何も言えなかった。
軽々しく、声はかけられなかった。
この前、渚が言いかけたのは、この事だったのか。