右手に剣を、左手に君を



「だけど、怖がるの、やめたの。

怖いけど、もっと、怖いものができちゃった」


「もっと怖いもの?」


「……皆が、傷ついたりする事……」



渚は、そう一言、だがしっかりと言った。



「死んだ人の思惑を探ったって、しょうがない。


私が守りたいのは、今生きてる皆なの。

生きてる皆の方が、大事なの。


私、がんばるから……。


これからも、よろしくお願いします」



渚は、正座したまま、深々と頭を下げた。


俺達は面食らい、顔を見合わせた。



「ちょ、やめろよー」


「そうだ。頼まれずとも、共に戦うつもりだ」



健太郎と雅が、珍しく慌てて話す。



「……顔を上げろよ、渚」



肩をたたいて言ってやると、渚はやっと顔を上げた。


その顔は泣いていなかったので、俺達は少しホッとする。



彼女はまだ、泣くのをなんとかこらえていた。


……こいつは、ヘタレなんかじゃない。



「ありがとう、渚。
皆で、がんばろうな」



そう言うと、やっと。


渚は、ふにゃーと笑って、少しだけ泣いた。


俺は、その小さな身体を黙って抱き寄せて。


雅も健太郎も、冷やかさずにそれを見守っていた。



これが……俺達が、やっと仲間になれた瞬間だった。



< 86 / 449 >

この作品をシェア

pagetop