右手に剣を、左手に君を


俺達は、早くこの事をばあちゃんに報告しようと、午後の授業をサボる事に決めた。


鞄をつかみ、教室を出ようとした瞬間。


後ろから、クラスメートの声がした。



「逃げるのかよ、神社の息子!」



耳を疑った。


まさか自分が、そんなあだ名で呼ばれると思わなかったからだ。



「……は?」



振り向くと、何人かの男子生徒が、青い顔をしてこちらをにらんでいた。



「御津、お前、住吉神社の息子だろ?

早く何とかしろよ」


「え?」


「知ってんだぞ。


漁師の父さん達も、町議会のおじさん達も、大人は皆、住吉神社のばあ様に頼んでる。


この異常気象や、病をなんとかしてくれって。


ばあ様は金を受け取ってお祓(ハラ)いをしておいて、

結局、何も良くならないじゃないか!」



……何だって?


だからって何で、俺が文句を言われるんだ?


横では渚がハラハラした顔で見ている。



「……お祓いで、天気や病気が治るかよ。


あれは神に祈りを捧げるだけ。


そのへんの悪霊は祓えても、地球温暖化とか、インフルエンザの流行を止めるのとかは無理だ。


それはばあちゃんもしっかり説明してるけど?」



なるべく冷静に言い返すが、相手は興奮したままだ。



「そんな事聞いてない!」


「早く、何とかしろよ!」



……気づいてしまった。


そうわめく奴ら以外も、冷ややかな目で、こちらを見ているのを。


健太郎が、後ろから言い返す。



「うっせーな!

苦しい時の神頼みかよ!

住吉神社があるおかげで、今までこの町は汚されずに済んでたんだ!

わけのわからない事、言うんじゃねえっ!」



健太郎は、怒っていた。


その勢いに圧された生徒達は、口をつぐむ。




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