図書室から始まる彼女の初恋
「ねえ…」
「ん?」
「ん?じゃないでしょ!
どうして傘一つしか持って来てないの!?」
「桃奈と相合傘するため。」
やっぱりね。
言うと思った…
しかもどうしてだろう。
こんな奴に
自分の素を見せられるのは…
「桃奈は明日空いてる?」
「図書委員…」
「ああ、あのタオル貸してくれた女の子一人に任せれば良いよ。
もし抜けにくそうだったら、俺が強引に誘いに行くから安心して。」
勝手すぎる。
しかも梨香さんは、啓を…
でも、今断っても、
どうせ無理やり連れて行かれるだろうと思う。
無駄な抵抗はやめておこ…
でも、梨香さんを裏切ることになるのかな。
ううん。
大丈夫だよね。
ただ遊ぶだけなんだし。
いや…遊ぶだけ?
啓は遊ぶなんて一言も言ってない。
「どうして?」
「桃奈に会わせたい人達が居るんだ。」
「男?女?」
「男。」
達…ってことは二人以上居るってことだよね?
「いや。やめておく。」
だって危ないじゃない…
「何考えてるのか知らないけど、襲わないから安心して。」
何考えてるか絶対、
ばれてるし…!
襲わないって言うんなら仕方ない。
「信じてやろうっ。」
それからも、
啓とはお喋りが絶えず続いた。
男の人と話すのって
案外楽しいかも。
いや…啓だけなのかな?
時々むかつくけど。
時々でもないけど…
「あ、ここ私の家。ありがとう。」
「どういたしまして。」
「啓はどっち?」
啓は今歩いてきた方を指す。
「逆だったの?」
「俺が桃奈と話したかったからだよ。
じゃぁね。」
あ、笑った。
営業スマイルでもなく、
ニヤッとかクスリとかじゃなく、
小さく笑った。
そんな啓はとても綺麗で私はしばらくの間見つめてしまった。
「…何か付いてる?」
「あっ、ううん。何でもない。
ありがとう。また明日ね。」
私は見えなくなるまで、
手を振った。