君がここに居たこと~初恋の奇跡~
「 誰と? 」
「 もちろん、繭と 」
返事の代わりに出たのは溜息。
いくつになっても若い気でいるなぁ、と
メニューを開きながら苦笑すれば
なによ、と少しムッとしたお母さんが
私の肩を叩いた。
「 早めに言ってくれないと
仕事休めないからね 」
「 はいはい 」
ご飯を食べながら話したのは
私の幼い頃の話だった。
後はお父さんの話だとか。
お店を出る頃にはもうすっかり
外は暗くなっていて、
時間は9時を過ぎていた。
5時過ぎに会社出たのにな、と
お母さんを駅に送りながら
着信がないか携帯を見ると
・・・・・ない、か。
やっぱり零れる溜息に
お母さんが幸せが逃げちゃうわよ、と
私の背中をバシバシ痛いほど叩いて
何事もなかったかのように帰って行った。