最初で最後の恋文
「うわぁ~!!」
 
真琴は初めて踏み入れた屋上に立って興奮した。
そんな真琴を見て、遥斗は真琴に

「騒ぐなよ!誰かに気づかれたらどうすんだよ!!」

と言い、カメラを空に向けた。
 
遥斗は屋上のドアの前に来ると、ポケットの中から安全ピンを取り出し、鍵穴に差し込むとカチャカチャと音を立てて安全ピンを動かした。
真琴は遥斗の行動に驚いた後、ため息が出た。
そんな、漫画みたいなことがあるわけがない!!そう思った。
でも、真琴の思いとは反対に遥斗は屋上の鍵を開け、屋上に足を踏み入れた。


「佐伯君って凄いね。泥棒みたい!!」
 
真琴は空に向かってシャッターをきっている遥斗を見ながら言った。

「“泥棒”と“凄い”は結びつかねぇんじゃないか?」
 
真琴の言葉にクックッと笑いながら遥斗は言った。

「あっ、そっか。でも、嬉しいなぁ。」

「何で?」
 
遥斗は笑うのをやめて、真琴に聞いた。
 
遥斗はアルバム作りに参加し始めてから少しずつ笑う回数が増えていき、今では普通に皆の前で笑うようになった。
真琴の心には寂しい気持ちがある。
でも、今まで気づかなかった遥斗と出逢えて嬉しいと思う気持ちもある。

その二つが混ざり合って、自分で自分の心がわからなかった。
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