最初で最後の恋文
真琴は遥斗に近づき、遥斗の手を握りしめた。
少し驚いたように遥斗は真琴を見た。

「あたしも楽しかったよ、この一ヶ月。もっと早く佐伯君に話しかけていればよかったって後悔している。そしたら、もっと早くに佐伯君の写真に出会えたのになぁって思う。」
 
真琴は笑いながら遥斗を見上げて言った。

「今まで暗かったんだ…俺の人生。全てを否定して、投げありに生きていた。でも、唯一カメラだけは好きで小さい頃から撮っていたんだ。」
 
遥斗はそこまで言うと少し黙って、顔を空に向けた。

「初めてだよ。褒められたのも。」
 
そう言うと遥斗は真琴に顔を向けて微笑んだ。
その顔に胸の鼓動が速くなるのがわかった。

そして、遥斗の顔が少しずつ近づいてくる。
真琴は自然に目を閉じ、真琴の唇に遥斗の唇が重なった。
遥斗の唇は冷え切っていて冷たかった。
でも、全然気にしなかった。
少しの間、唇を重ねた後少しずつ遥斗が離していった。
 
真琴は恥ずかしくて、まともに遥斗の顔を見ることが出来ず俯いていると、遥斗から思いがけない言葉を聞いた。

「…ごめん。今の忘れて。」
 
真琴は遥斗の言葉を聞くと、遥斗を見上げた。
真琴が見上げた先には寂しそうな目をしたままの遥斗が俯いていた。

「何で?何で、謝るの?あたしは嫌じゃなかったよ。だって、あたしは佐伯君のことっ―」
 
真琴は必死に自分の気持ちを伝えようと遥斗の腕を掴み、遥斗のことが好きだと言いかけた。
しかし、遥斗は真琴の気持ちを拒むかのように真琴の口を手で塞ぎ、その先を言わせないようにした。
そして、ゆっくりと腕から真琴の手を離していった。

「ごめん。…宮崎の気持ちには答えられない…。」
 
そう言うと遥斗はゆっくり真琴に背を向けて公園から出ていった。

真琴は遥斗が遠くなっていく背中を見つめたまま涙を流した。
頬には冷たい涙が流れ、真琴の周りは冷たい雪が舞い降りていった。
何も考えられなかった。
ただ、ただ、真琴はその場で立ち尽くして涙を流していた。
真琴が見つめる先には、もう遥斗がいないのに…。
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