最初で最後の恋文
「読まないの?」
 
香里が静かに真琴に聞いた。

「佐伯君が真琴に残した最初で最後の手紙でしょう。」
 
真琴は香里の言葉に顔を上げたが、また俯いてしまった。

「…怖いの。」
 
真琴が発した言葉は重々しく誰もが俯いてしまった。

「…この手紙に何が書かれているのか、わからない。」
 
それだけではない。
この手紙を読んでも書いた本人がいないのでは、返事を出すことができない。
そう、遥斗はもうここにはいないんだと実感してしまうことが怖い。

「大丈夫。真琴が読み終わるまで待っているから。真琴の隣で、あたしたちは待っているから。あたしたちは誰もいなくなったりしない。」
 
茜はいつもと変わらない口調で真琴に向かって言ったが、その中には五人全員の想いが含まれているようだった。
 
真琴は茜の言葉を聞くと、五人を見渡した。
五人とも優しく真琴を見つめている。
その目に包まれながら真琴は、そっと封筒を開け、中にある一枚の手紙を出した。
 

ゆっくりと開ける―遥斗からの手紙を――。

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