四魂 ~sikon~
依然として彼は外を向いたまま、というか体育の授業を行っている運動場を見ていた。
次に彼女が瑠衣の名前を呼ぶ前に、先生の声が静かな教室にまた響いた。
「笹原、ちゃんと前を向いて座りなさい。」
彼女は不服そうに返事をして正面に向き直った。
しかし彼女もまた、依然として隣の彼を見つめていた。
俺の弟の一人、末っ子の景が運動場で走り回っていた。
末っ子という言い方は正しくないかもしれないが、一応景が俺たちの中で最後にこの世
に産まれた兄弟だ。
彼は天真爛漫という言葉がぴったりな弟だと思っている。
勉強は得意ではないが、クラスでは学級委員長をこなすほど人望厚く、運動神経抜群、そしてムードメーカーだ。
何より、家でも学校でもその無邪気な笑顔が特徴的で、俺たちの中では一番幼い容姿をしていた。
茶髪で無造作な髪に、母親ゆずりの真ん丸い瞳。
小さい頃からよく遊びまわる元気な少年だったが、たまに女の子に間違えられることがあった。
そのたびに、きょとんとする景を見て、俺たちと両親は何度笑ったことか。
俺がつい運動場にいる景を見てしまっていたのは、目立っているからという理由と、元気すぎて怪我などしないかという心配のため。
だがそんな風に注意するたびに、景は俺に「心配性」だの、「過保護」だの言って、笑うばかりだった。
そして俺は、そのたびに思う。
もしかして自分でも気づかぬうちに、いつからか彼らの父親代わりになろうとしている自分がいるのじゃないか、と。
思い上がりかもしれないし、そうかもしれない。
いずれにしても、俺がいくら弟たちの面倒を見ようと、父のようにはなれない。
父は俺の理想だから。
そして弟たちもまた、俺に父親を求めているわけではないと、ずっと前から知っている。
何よりもう、面倒を見られるほどの年でもないのだ。
俺も、弟も。
でもやっぱり、「弟」なんて変だ、と今日も彼は思っていた。