SD殺人事件
「八時なんで、磯俣くんお疲れさんでーす。」地―坊がインカムで言うと、
「僕、今日中遅になったんですよ。」
すかさず磯俣から返事が入った。
中遅とは本来八時上がりの人がラストまで残る事である。

「そうなん?聞いてへんけど。」
地―坊が返すと、
「言うの忘れてた。俺、事務所でせなあかん事あるしホール出れへんから磯俣に頼んでん。せやし、離れるわぁ。」
信くんがそう言って事務所へと消えて行った。
勝手な班長である。

「何やそれ。んな、イソマティー休憩どうぞ。」
地ー坊が少し不機嫌そうに言うと、ヘラヘラしながら磯俣が休憩所に消えて行った。
しばらくして、
「高さんよろしいですか?」
磯俣からインカムが入った。
「何?」
無愛想な声で高くんが返した。
「タバコ一本もらっていいですか?」
「ええよ。」
「ありがとうございます。」
そんなやり取りが行われてる時、何気に中央エントランスの方を見ると信くんが外の方に歩いて行くのが見えた。
「めっちゃ急遽中遅やねんなぁ。メンソで良かったら俺の吸ってええよ。」
もうすぐ最後の休憩なので磯俣にそう言うと、
「あ、もう大丈夫です。山本班長がさっきのインカム聞いてたみたいでタバコ買ってきてくれはりました。残ってくれたお礼って。」
本来なら喜びながら言いそうなセリフを、
ドンヨリとした空気で磯俣が言った。
怒られてる時は嬉しそうにするくせに意味わからんって思いながら、
「良かったやん。あ、」
ランプがついたので、磯俣の肩を叩いてからコースへ向かって俺は走った。
その時、思わず信くんええ奴やなじゃなくて、
「変な奴。」そう思ってしまった。
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