最カノ[短編]
…………はっ?
俺は驚いて、あまりに素頓狂なことを言い出す心菜の顔をまじまじと眺めた。
心菜は有り得ないくらいに真剣な眼差しを向けている。
“メロメロ”と言えば、異性のポケ○ンをメロメロにさせ、攻撃をさせなくするというなんとも恐ろしくそしてくだらない技だ。
でもさ……
なんだこれ。やべえ。なんか俺、今めちゃめちゃときめいちゃってるし。
可愛すぎだろ、これ。
「嫌いになんてなんねぇよ、あほかお前?」
「……ほんと?」
「ほんと」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとにほんとっ!」
「――よかったぁぁ〜!」
心菜が安心したように大きく息を吐いて、にっこり微笑んだ。それはもう有り得ないくらいに可愛らしく。
ああ……
なんかさ、結局いっつもこいつの言いなりになっているような気がしてるんだけど。
俺の勘違いか?
俺の思い過ごしか?
まあ……いっか。とりあえず喜んでるし。可愛いし。
――でもさ、“ふみつける”っていうのは、その泣くほど重要な“メロメロ”を忘れさせるくらいすごい技なのだろうか?
よく考えてみればさ、明らかに俺にやるために覚えたっぽいよな……。
隣で無邪気に喜び、まさに白雪姫の如く笑顔を浮かべている心菜の顔が、一瞬俺の目には、毒リンゴを持つ魔女のように見えたけれど――きっとこれも気のせいなはず。うん。
[―Fin―]