最カノ[短編]
 俺は正直、嫉妬した。

 男の嫉妬などあまりカッコいいものではないから心菜にはこんなこと言えないけれど。白雪姫と言えば魔女に化けた意地悪な王妃に毒リンゴを食べさせられ、通りかかった王子様がキスして目覚めさせるというような話ではないか。
 キスだって? 誰が相手役だか知らないが冗談じゃない。
 だから俺は言ってやった。皮肉たっぷりに。「とろい心菜にそんな大役出来るはずねーじゃん」なんて。
 ああ、俺って本当素直じゃない。

 いつもの心菜ならばここで「もぉっ、ひどぉい」とかなんとか言って、また桃の如く顔を染めるはずなのだ。しかし今日の心菜はと言えば、しれっとした顔をして「みんなに上手だねって褒められたもん。壮史こそメイドなんて出来るの?」なんて言ってのけた。

 くそ、心菜のくせになんて生意気なんだ。



< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop