最カノ[短編]
 俺はそんな心菜の態度に、ついムキになり言い返したんだ。生意気じゃないかと。
 そうしたら、今、心菜がとんでもなく突拍子もないことを言い出したように感じたんだけれど……いや、うん、やっぱり俺の聞き間違いだったみたいだ。


 「壮史ってば〜」

 おっといけない。つい自分の世界に入っていた。俺の悪い癖だ。
 俺は慌てて自分より少し後ろを歩く心菜を振り返った。もうだいぶ日が翳り、はっきりと心菜の表情を読み取ることは出来ない。
「ねえ、聞いてた? だから私、新しい技覚えたんだってば!」
 心菜が焦れったそうに口を開いた。

 ……はい? 

 非常に残念な事態が起きたようだ。やっぱりさっきのは俺の聞き間違いじゃないらしい。
「技?」
「うん、そう! “いばる”覚えたの!」
 …………ええっと。
「へ、へえ……」
 他に言う言葉が思い浮かばない。
「だから威張れるの。すごいでしょう! あ、でもその代わりにね、“こうそくいどう”忘れさせちゃったの」
 何故かしょんぼりと俯く心菜。

 いや……さ、会話がおかしくてよくわからないけど、とりあえず元々心菜とろいし、“こうそくいどう”とか覚えてなくないか? いやいや、そうじゃなくて俺。技とか別に心菜、柔道とかやってるわけじゃないじゃん? というかそれ以前にそんな技聞いたことない。
 てことはやっぱりあれだよな……。



< 4 / 10 >

この作品をシェア

pagetop