最カノ[短編]
 そしてとうとう迎えた文化祭当日の帰り道。


 いつもに増して遅い時刻になってしまい、そのおかげで辺りもいつも以上にひっそりと静まり返り、深い暗闇に包まれていた。
 まるで俺の心の中のように。

 そう、今日の俺はいつになく機嫌が悪い。黒いモヤモヤが体中に渦を巻き這い回っているような感覚がする。
 クラスの女子に無理矢理フリフリのミニスカートを着させられ、裏声でメイドをやらされたからではない。いやもちろんそれも嫌ではあったのだけれど。まあ細かく言うならば、嬉:嫌=4.9:5.1くらいの割合か。

 ともかく、この異常なまでの機嫌の悪さは心菜の『白雪姫』を観てしまったからだ。

 当たり前だが実際にはキスしていないらしいけれど、それにしてもあの至近距離は有り得ないだろ。しかも王子役は、女子からキャアキャア騒がれている学年一のイケメンときたもんだ。いわゆるジャニ系というやつ。



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