最カノ[短編]
「ねえねえ、ハルキシス〜」
 心菜が悲しそうな顔で俺を見上げた。

「ああっ?」

 俺はつい声を荒げた。こんな時に『ハルキシス』だぁ? いや、というかハルキシスってなんだよ? 俺の苗字が『春山』だからか? 俺、フォルムとか変えらんねーし! まあ……ハルゴンとかハルーパーとか言われるよりはいいのかな? 
 妙に納得してしまう俺。……いやっ、いかんいかん。俺は今めちゃめちゃ怒ってるんだぞ!

 俺は隣をトボトボ歩く心菜を睨み付けた。すると心菜が捨てられた子犬のように怯えながら目を潤ませ、しょんぼりした顔を地面に向けた。

 やべえ……言い方きつすぎたかな。

「あ、いや、どうした?」
 戸惑う俺の言葉に、心菜が俯き加減だった顔をパッと上げた。
「あのねぇ……そろそろこれからのために、攻撃技も覚えようと思ってるのね」

 こいつ……またポケ○ンかよ! 人の気も知らないで。

「だからね、“ふみつける”覚えさせようと思って」
「へー、いんじゃね?」
 というか、どうでもいい。
「だけどね、そうするとひとつ技忘れさせなきゃならないじゃない? ……それ“メロメロ”にしようと思ってるの」
 そんな俺の様子に気付かず、心菜は眉間に皺を寄せ首を傾げながら呟く。
「ふーん、そうなんだ」
「うん。だけどね……」

 心菜が上目使いで俺を見る。目に涙をたくさん溜めて。

「……なんだよ? どうした?」
 さすがに何かあったのかと心配になり始め、足を止めて背の低い心菜の顔を覗き込むために俺は腰を折った。



「あのね……“メロメロ”忘れさせちゃったらね、壮史、私のこと……好きじゃなくなっちゃう?」



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