Material Boy

「それは、滝沢さんがいてのあなたってことですか?」


詰め寄るように身を乗り出す安藤に、

野乃はさらに続けた。


「眼鏡の私を知ってる?」


「あ、はい見たことあります。」


「あれは伊達眼鏡。

 私の武装、

 男よけ。」



「高校の時ね、好きな人ができた。

 その人には彼女がいてね。

 彼女、

 自殺未遂したの。

 わたしの親友だった。

 結構遊んでる人だったけど、

 まさか彼女とも付き合ってたなんて。

 私のことを知って、反射的に2階から飛び降りたの。

 落ちる場所がよくて助かったけど、

 私が原因で人が亡くなるところだった。

 ショックだった。

 恋心もそうだけど、親友も失った。



 それからはずっと、

 人と深く関わらないようにした。

 もう恋愛とかそういうのに近付きたいと思わなかった」

 
「それで、伊達眼鏡?」

「そう、かけてみたら楽だった。

 メガネの向こうの世界は全部他人事。

 自分に関係のない世界だった。」


「それを外させたのが滝沢さん?」

「Chenge your thoughts and

     you change your world.

 彼が言った言葉よ。考えを変えれば世界が変わる。

 ポジティブシンキングのことだと言ったわ。

 それを聞いたときドキっとしたの。

 私は、負の方向にそれを使っていたの。

 ネガティブシンキング。

 『回れ右』って

 彼の言葉が、反対方向に背中を押してくれたの。」



 




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