Material Boy
もう午後9時を回っている。

遥火から渡された名刺には、

ペンで住所と携帯番号が記入されていた。

遥火と共に行動することが業務だったのだから、

当たり前なのだろうと思いながら、

こんな個人情報さえ交換していたんだと思うと、

嫉妬心がざわめく。

帰国してきた夜、余裕の表情で、

遥火の部屋から出てきた牧口さつきの顔が

フラッシュバックする。

何やってるのかな、私、

あんな気持ちにならずに済むのよ、

このまま放っておけばいいのに…

野乃は牧口さつきのマンションを見上げながら、

自分が何したいのか解らなくなっていた。

「どうしよう。」

そのまま動けなくなっている野乃に、

後ろから声をかける人がいた。

「どうしましたか?」

初老の白髪交じりの優しそうな男性が話しかけてきた。

「あの…」

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