Material Boy
野乃が黙って頷くと、

ぎこちない笑顔を作り

「どうぞ。」

とスリッパを足元に揃えた。

そこは、日頃の牧口の雰囲気とはちがう温かい家庭の香りがした。

「あ、あの」

「こちらへどうぞ。」

勧められるがままに、

リビングのソファーに腰を下ろした。

機嫌よく笑いかけ会社の話を知りたがる父親の話に

相槌を打ちながら、

まるで、会社での様子と違う、姿を演じる

皐月に話を合わせた。

30分ほど話しただろうか、

「遅くなりますので、私はそろそろ失礼します。」

そういって腰を上げると、

「送っていくわ。」

さつきもついてきた。
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